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現ライター、豊島ミホのブログです。雑記帖ゆえ雑文が書かれていきます。カテゴリの「はじめに」も是非お読み下さいませ。


by 豊島ミホ
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ただ待っている時間


こんばんは。豊島ミホです。

井上荒野さんの『ズームーデイズ』(小学館文庫)を読んだよ。
なんか、長編恋愛小説読むぞモードになり。
再読です。前は08年11月、文庫化直後に読んでます
(このブログに感想はないけど日記に書いてあった)。

恋愛小説……恋愛「だけ」の小説って最近少ないよね?!
恋愛自慢エッセイが全然ないっていう泣き言を最近書いたけど
恋愛小説もやはし新刊としては見かけなくなっている感。。。

恋愛じゃない何か(事件とか試練とか)が起こって、
それを解決する過程でついでに胸キュンも起こってる! みたいな本はあるけど。
あとは自己実現的な。恋をする過程で大きな心の傷が癒える、みたいな
お話も多分あるかな。。。

でも私はマジに恋愛「だけ」のお話が読みたい。
恋にかまけ純粋に恋だけに終わる小説が読みたい。
乗り越えなくていい。選ばれなくていい。立ち向かわなくていい。
でも、心は荒波の中の航海士。みたいなやつ。

きっと『ズームーデイズ』はそうだった! 多分!
と思い出してもう1回買って読みましたよ……
ソッコーで読みたくなりすぎて在庫検索できる書店に買いに走ったよ。
Amazonプライムでも遅い! 今! みたいな気持ちで。

そしたらば超〜〜〜〜


面白かった!


一気読みしてしまいました。


物語は「ザ・恋愛小説」として始まります。
主人公は30歳(か、お話の冒頭ではその少し前)の女性。
2世小説家で肩書は「作家」、テレビに出たり雑誌記事書いたりしてるけど
本を何年も前に1冊出したきりで、最近ろくに小説は書いていない。
彼女が、テレビ局でアルバイトをしていた22歳のおしゃれ大学生と出会って
恋が始まります。(8つ下やで!)

このおしゃれ大学生(あだ名は「ズームー」)が
とりあえず、んめっっっちゃかわいい。
恋の始まりの、相手がキラキラしてしか見えない時期、
ただひたすらに楽しいだけの時間のかがやきがそのまま書いてあって
読んでるこっちも「ファア…… 好き……!」ってなる!!
ズームー、見た目はおしゃれでかわいいし都会人なんだけど
中身が怒涛にピュアなのもまた……!!

しかしソッコーで雲行きは怪しくなります。
このお話がそもそも回想形式で語られているため
始まってすぐに「終わり」は見えているんですよ。

 ズームーとは七年間暮らした。
 三十歳から三十七歳まで。バカで怠惰で可哀想で不可思議な日々。
(中略)
 七年間、私は何もしなかった。ただズームーと暮らしていた。ズームーは、あの日々そのものだったとも言える。
 <文庫版 p.4より>

 私たちは家具を買い、カーテン生地を買い、縫い、それぞれの(連名ではない)転居通知用の絵はがきを選び、文面を考えた。引っ越しの準備は――お金の工面さえ――忙しくも心浮き立つことであり、そのうきうきは、恋に似ていないこともなかった。だから私たちは七年の間に、しばしば引越しをした。
 <文庫版 p.17より>

恋に似ている「うきうき」を引越しで人工的に作り出さなければならない7年間。
それなのに他のことをなんにもしないで「ただズームーと暮らし」ているという7年間。
(言葉は失礼ですが)ろくでもないかほりがぷんぷん漂ってきますね!

そしてソッコーでときめき描写的なものはなくなっていきます……
途中で私は気付いた。
「これ恋愛小説じゃねえじゃん」ということに。
多分4分の1から3分の1くらいで気付いた。

そもそも主人公の「私」には、最初から他に恋人(妻子ある男)がいて、
その辛い恋(?)から逃れるためにズームーと「安らかな恋」をしようとしている。
そんな状況がゆるやかに解決していくでもなく、
どんどん悪くなっていきます。
恋人の態度は冷たくなる一方。一緒に住んだはいいけど金の尽きた
「私」とズームーはずるずると「私」の実家に寄生。
(なにしろお父さんが有名な作家なので実家に経済的ゆとりはある。)
実家に寄生するとやがてズームーは帰りが遅くなり、
「私」は相変わらずろくろく小説書かないまま
実家の母に対して仕事してるフリを続ける……。

ってほんとあらすじだけ抜き出すとくら〜い筋書きですけど、
これが読むと! 面白いんですよ〜〜〜〜「私」のダメぶりが!!!!
なんていうの。「ダメ」の書き方って色々あるけど
この作品中での書き方は決して自虐的でないし、
過剰な「どやこんなにダメですぞ」みたいな感じもしないし、
なんでしょうね?! どういう書き方で読み手がこういう感じ方になるのかわかんない!
ただひたすら「うひゃひゃ」って感じなの、読んでいる間!
親近感がわいてくる!

この小説って、
「うだつのあがらない日々のお話」
なんだ。
って途中でわかるのです。
ズームーデイズというのは、「めいっぱいの恋をした日々」とかじゃなくって、
もうどうしようもなく、「うだつがあがんなかった日々」のことなんだ、て。

巻末の解説で、角田光代さんがこう書いています。

 しかしこの小説は、ひとりの女性の愚かしさを描いた小説ではないし、自己コントロールのきかない恋愛を描いたものでもない、と私は思う。これは一見恋愛小説のようだけれど、そうではない、とすら思うのだ。
(中略)
 無為というものについて、この小説から突きつけられたような気がしたのである。何も作り出さないこと、決して前へ進まないこと、その場にうずくまること、目を閉じること。そのような状態に、私たちはどのくらい留まることができるのか。
 <文庫版 p.199-200>

「そうそう!」とうなずきました解説のこの部分読んで……。
正直自分が書いてもらった以外の解説で
ここまで「大事なことを言ってくれた!」みたいなやつ読んだことなかったっていうほど。。。
これ、「無為な時間」を書き残した小説なんですよne!!!(←ちかしい)

なおかつこの小説がすごいのは、
最後まで読んだ時に、その「無為な時間」を「無駄」とは思わなかったこと……。
これは個人的な読後感かもしれないけれど。
今、絶賛うだつのあがらねえタイムを過ごし中の私だから感じることかもしれないけどw
(も、ほんと主人公に対して「仲間感」しかなかった! さいごまで!
 いつの間にか働いてた時「うらぎりやがって!」くらいおもったwwww)
なんかそういう、「ただ待っている時間」? やりすごさなければいけない時って
あっても……しかたないと思う。
しかたないし、それを振り返った時に……なんていうの。
この話って、登場人物結構みんな最後までしょーもないんですけど
(主人公もズームーも妻子ある恋人もみんな)
それをどんな形であれ一緒に過ごしてくれた人に、
ありがとうって言いたくなるような。感傷を呼び起こさせる。
この無為な時間が「ないほうがよかった」とはね、言い切れないって気持ちになる。

究極、この主人公がこの無為な7年間なんて過ごさずにかんばれたか?
っていうと、私全然そー思わないし……。
いいじゃん。こんな7年、あってもいーじゃんって。
他人のことだししかも終わったことだから言えるのかもしれないけど
まあでも終わってしまったらほんとそう言っても差し支えないと思う……。

ちょっとこれは。
うだつのあがらねえ日々を過ごしている仲間(誰か知らないけど)には
読んで欲しいですね!!
まあ主人公は経済的にめっちゃ恵まれてるので
(家賃も入れず実家持ちのマンション住まい+文筆業で適当に小遣いは入るという環境)
現代の「うだつのあがらねえ人」からすると「おいおい優雅だな!」
「俺がそんな恵まれた環境にいたら真面目に仕事するけどな!」みたいな
ふーなこと 感じなくはないかもしれないけど……。
比較を持ち出さずに読める人にだったら おすすめしたいです!

この小説とは関係なく
「ただ待っている」能力って意外と大事かもなー
て感じること多いです。最近。
なにもせずに待つみたいなこと。
なんかしようなんとかしよう! って思っても
自分の力でなんともなんないときって。あると思うの。
そういう時にぐるぐる「問題解決問題解決!」って言って
自分を追い込むというのが私がさんっざんハマってきたパターンだな! って……。
感じるようになったよ。

そういうのと『ズームーデイズ』はぴったりはまって面白かったです。
ま、「ただ待っている」のもそれはそれでものすごくしんどい……
そのしんどさについてもしっかり言及してある小説なので
なおいっそうおすすめなんだよ。



by refri5erat0r | 2016-12-03 20:36 | 読んだものの感想