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現ライター、豊島ミホのブログです。雑記帖ゆえ雑文が書かれていきます。カテゴリの「はじめに」も是非お読み下さいませ。


by 豊島ミホ
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女がいなくなる時は

こんばんは豊島ミホです。

昨日夫に買い与えられた村上春樹の新しい文庫
『女のいない男たち』を、昨晩から今日昼にかけて読みました。

読書体験自体はやっぱり非常にスムーズで心地よく
作品に対しなんの文句もなかったんですけど、
タイミングの悪いことに、私はちょうど
「失恋について男が語っている対話」をほかの媒体で目にした後でして(それは確か月曜日の夜)、
それに対してはむっちゃ釈然としない気持ち……なんなら怒りを抱えていたので、
本を閉じた後15分くらいしてから、突然

ムラッ……

としてきた!
何か腹のなかに収まらない気持ちを感じた!


『女のいない男たち』は、男の失恋短編集なんですよ。
6作収録されてるんだけど、5本目を除いてすべての短編で
女が理由なく(※男目線では)男のもとを去っていく。
だから作品タイトルの「女のいない男たち」っていうのは
「女が不要な男たち」とか「女を獲得できない男たち」ってことじゃなく
「女に去られた男たち」という意味。
出てくる男たちは皆、一度は女と濃い関係を持った男ということになります。

しかもほとんどの話で、男側は女に対し強い気持ちを持っていて、
それにふさわしい丁重な扱いもしている。
そんな中で「なぜか」! 女がいなくなってしまう……

その「なぜか」! 感はラストに収録された表題作「女のいない男たち」で
わかりやすく強調されています。


 でもそれからエムは、いつの間にか姿を消してしまう。どこに行ってしまったのだろう? 僕はエムを見失う。何かがあって、少しよそ見をしていた隙に、彼女はどこかに立ち去ってしまう。さっきまでそこにいたのに、気がついたとき、彼女はもういない。たぶんどこかの小狡い船乗りに誘われて、マルセイユだか象牙海岸だかに連れていかれたのだろう。僕の失望は彼らが渡ったどんな海よりも深い。
 <文春文庫版 p.284-285より>

 でももちろん僕が再び彼女を失う時はやってきた。だって世界中の船乗りたちが彼女をつけ狙っているのだ。僕一人で護り切れるわけがない。誰だってちょっとくらい目を離すことはある。眠らなくてはならないし、洗面所にもいかなくてはならない。バスタブだって洗わなくてはならない。玉葱を刻んだり、インゲンのへたをとったりもする。車のタイヤの空気圧をチェックする必要もある。そのようにして僕らは離れ離れになった。というか、彼女が僕から去っていったのだ。そこにはもちろん水夫の確かな影がある。
  <同p.287-288より>



女は水夫のせいでいなくなるんじゃないっ……!!!



と私は思った。
読んでる時は思わなかったけど本を閉じて15分くらい後で強烈に思った。

当のお前以外を理由にしては絶対にいなくならないっっ……!!!!!!!!

って。


ここで話を「月曜日に目にした失恋男子の対話」のほうへ戻すと、
それは 30がらみのフラれたばかりの独身男性たちが、
なんでフラれたかの反省会をするっていうものだったんですよ。
その……恋愛の捉え方? みたいなものに触れて
私はひさびさに ひゃっ!!! ってなった!

なんていうんでしょうね。
付き合いたての蜜月の頃は別として(その話の中でも別だった)
結局のところ 男は女をどこかのタイミングでミッション化している。
「仕事」と並列の項目として「女」があるみたいな状態になる……

その話の中で、「彼女に対し〜〜しなきゃいけなくなる」
「が、俺は無理だった」みたいなことが
別れの理由として語られていたんですけど、
なんなのその……義務感……? 任務感……?
任務として捉えられた時点で 私だったら去る。ソクサる!!!!
(話の中の「彼女」も最終的に去っていったわけだが。)

なんかこれ ディティールが引っかかったとか そういうレベルの話じゃないんですよ。
30歳以上の女性たちに「わかるしょ?!」って泣きながら問いかけたい!!
男って! いつの間にか勝手に「俺バリヤー」の中に戻っていく!
ちょっと文章で伝えられる気しないんで図で描きますね、


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これ!!!


これなに?!!


なんかこぉ 相手の中に「概念化した女」としてしか存在しなくなる感じ!
リアルの私とは何も共有してもらってない感じ!
なんでこゆこと起きんの?!
(付き合う前からこういう感じの人すらいるよね?!
 そういう男は間違いなく美人に特攻するから私はまったく被害を受けてませんが)
(あ、あとこの文章すげえ怒ってますけど、あくまで思い出し怒りで
 夫には一切「俺バリヤー」に入る兆候がありません。
 交際から数えて2年以上経ってもずっと図1の状態です……イケメンすぎる)

まーとにかくこうなると 女側としては去りたくなる。
虚しい、自分のやってることが。
そしてこれで去られたほうは……
「俺バリヤー」の中に概念の彼女が存在しているのに
リアル彼女はいなくなっちゃうという「失恋」状態になる。
概念の彼女はそれなりに大事に思っていたわけだから
「僕は大事にしていたのに、どうしていなくなっちゃったんだ!」ってなる。


これ『女のいない男たち』と関係ないって?
そりゃーないかもしれないです……。
それぞれの短編で 女がなぜ去るのかという理由が描かれていない以上
理由について憶測であれこれ言っても仕方ない。
(1話目「ドライブ・マイ・カー」は妻が浮気した理由に
 ダイレクトに迫っていくので、仮説くらいは出る。
 そのせいか私は1話目がかなり好きです)
あと、上では他の女性に思いっきり共感を求めているけど、
実際には理由なく男のもとを去ってくタイプの女性も、いっぱいいるのかもしれない。
そういう女性が、『女のいない男たち』に描かれた「女」であるのかもしれない。

でもこーやってここで、ごく個人的な経験からしか言うことのできない
男と女の気持ちのすれ違いについてまくしたてたのは、
ネットでざっと検索かけて結果の上位を見た限り、
誰もこの本から受け取った気持ちについて書いていなかったからです。
「男の失恋」という普遍的な題材から、自分の経験のどこを掘り起こされたかを。

村上春樹の本の「感想」と題したものって、「評価」ばっかりだった。
高名で実力ある作家であればあるほど、「感想」じゃなくて「評価」を書かれてしまうのね。
しょっぺえ現実……。
まーもっとも作家に言葉を届けたい人のほんとの「感想」って
手紙で届いているものだから、村上氏を気の毒には思いませんけど。

ただ「この作品を通したみんなの失恋観が読みたいっっ!!!」
と思って検索かけた私が切なくなっただけ!
結構ねばったんですけど! 「女のいない男たち 俺も失恋」で検索するとかwww
これさ男の人共感したの?!
女の人素直に受け取れてんの?!
どうなの?!
文庫になったことだしライトな春樹読者のみんな「感想」を書こうぜーー\(^o^)/ (いざない)

ちなみに本の感想書く時たびにだいたい書いてるけど
私は「共感できる本がいい本」って思想の人じゃないんで。
反感を覚えたりこういうムラッとくる気持ちを覚えたりしても
それが不快なもの(不快な書き方?)でない限りは
逆にその気持ちが鮮やかであればあるほど「いい読書だった」と思うよ!
普段人と接していてもわからないような、物事の捉え方や感覚の違いを
うっすらとでもわかるようにしてくれるって、読書の効用ですよね。
だから『女のいない男たち』も好きか嫌いか訊かれたら余裕で好きだし
どれが一番おもしろかったかと言われると引用した表題作がおもしろかった。多分。
水夫のたとえはずっと忘れまいよ。



by refri5erat0r | 2016-10-13 01:58 | 読んだものの感想