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現ライター、豊島ミホのブログです。雑記帖ゆえ雑文が書かれていきます。カテゴリの「はじめに」も是非お読み下さいませ。


by 豊島ミホ
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マーガレットコミックス『魔法使いの心友』レビュー(2/28)

こんばんは、豊島ミホです。
前フリもなんもなしでアレですが、今日は別マの新しいコミックスから
1作紹介させて下さい。

魔法使いの心友 1 (マーガレットコミックス)

香魚子 / 集英社


魔法使いの心友 2 (マーガレットコミックス)

香魚子 / 集英社



『魔法使いの心友』 香魚子(作画)×柚木麻子(原作)。

主人公の楠そよは、フツーを信条として生きる女子中学生。高等部までクラス替えのない教室で、空気を読んで賢く生きている自覚がある。自分より優れてはいない「フツー」の女の子で形成したグループで過ごし、いじめは少々心が痛んでも見過ごす。いじめられっ子がひとりでいる時を見計らって、クラスに溶け込むように声をかけたりするぶんだけ、自分は「性格がいい」と思っている。
そこに突如現れたのが、転校生の魔美坂(まみざか)リサ。帰国子女だというリサは勉強もスポーツも万能、そしてとびきりの美女。今まで威圧感で教室を支配していた3人組のグループを軽々と無視、いじめのターゲットであった鈴木雅美にひと目で飛びつき、仲良くするように……。雅美が「心にロータスを咲かせた」「プリンセス」であるなど、わけのわからないことまで言い出し、空気を読まないリサは、転校早々3人組に目をつけられる。
そよは機会をうかがって、ひっそりとリサに忠告する。このクラスでは目立つと面倒なことになる、雅美とは仲良くしないほうがいい、と。
しかしリサはそよの心配を「くだらん」のひと言で一蹴、別の機会には忠告し返してくる。
「普通でいるだの 空気を読むだの お前 今日だけでも何回それを言ったと思っている」
「心の花が からからに干上がっている小娘の相手をしている暇など 私にはないのだ」
「お前の心など 死んでいるのも同然だ」

……

と、こんな感じでスクールカーストものを思わせつつ始まるこのお話なのですが、実は魔女っ子もの!!
帰国子女を装ったリサの正体は「魔法使い」。人間界に転生した魔界のプリンセスを探しにきた、ということが早々に明かされます。そよは成り行き上、リサが人間界でうまくやっていくためのサポートを引き受けることに……。
『魔法使いの心友』は、現代の女子中学校を舞台にした、堂々たる魔女っ子ものなのです!(いや、表紙とタイトルを見てしまえば「実は」でもなんでもないんだけど。。。)

「りぼん」ならわかるけど、「別マ」で魔女っ子……。
この無謀な挑戦を選んだのは、何を隠そう原作の柚木麻子です。

柚木が別マからマンガ原作を依頼されているという話を聞いたのは、連載開始の相当前でした。
既にある小説をマンガ化するというのは、どこの雑誌でも珍しくなくなりましたが、一般文芸の作家に「マンガ原作」を依頼するというのは、少女誌では相当珍しい話です。
それだけでも驚いたのに、やろうとしているのが「魔女っ子」……? その企画……通るんかっ?! とひそかに心配しておりました(その時は香魚子先生のお名前も出てなかったし……)。

しかし別マで開始された連載を読んで、私は柚木がやろうとしていたことに気付きました。
これは夢と魔法のファンタジ〜エンターテイメントとかではない。かなり直球の、そして現実に根ざした、女の子の成長物語だ。

以下、中盤くらいまでのネタバレを含んだ話になりますが……。




リサが探しているのは魔界の血を引くプリンセス。もともと魔族は自分でエネルギーを創り出すことができず、人間の女性だけが持つ感情の宝石「ロータス」の力で魔界を保たせているという。昔から時々、人間界に降りる魔女がいるのは、人間の女性が持つ「ロータス」を持ち帰るため。もちろん、彼女らには魔法で喜びを与え、それをロータスと換えている。人間と魔女は持ちつ持たれつの関係……。
しかし近年、人間界から採取されるトータスは激減。
「誰も魔法を信じない/人々の心は荒廃し 誰も心に花を咲かせない/そのせいで魔界は滅びようとしています」
というのがリサの説明。「ロータス」は誰の心にも咲く花なのだが、ひときわ大きなロータスを持っているはずのプリンセス(人間と魔族の混血であったために、200年前に魔界を追放された悲劇の姫)を探し出して、そのエネルギーで魔界を救うというのがリサに課せられた使命だ。

この物語の鍵はプリンセス……ではなく、実は「ロータス」のほうにある。
心の花「ロータス」とは何か? そこはあまり直接的には語られないのだが、一瞬の感情ではなく持続的なもの、自身を支える心の芯でありその人特有の「能力」でもある……というのが、さまざまなプリンセス候補の登場とともに自然と明らかになっていく。多少乱暴な言い換えになってしまうだろうが、「個性」に近い。
主人公のそよは、上に書いたように、第1話にしてリサに「心の花がからからに干上がっている」と断言される。フツーを信条として生きてきたそよには、個性、自分、というものがない(生まれつきなかったわけではないだろうが、とうに枯らしている)。
対して、いじめのターゲットである鈴木雅美には、刺繍という特技があり、他人に合わせることなくいつもその世界に入れ込んでいる。いじめられているという事態に、彼女は(傷ついていないわけではないだろうが)やられてしまわない。先輩が抜けて廃部寸前の手芸部を自分の代で終わらせまいと、展覧会を盛り上げるため努力している。「ロータス」を持つ女の子は、他人の顔色などうかがわず、自分の花を大きく咲かせることに集中できる。

自分の個性を認め、それを伸ばすための努力をするというのは、こうして文字にすると簡単なことのようでいて、非常に難しい。
他人と違うということは、ある面において他人に劣るということと同義であり、その比較に囚われていると個性を伸ばすことなど選べない。作中でも、主人公のそよと、そしていじめっ子グループのリーダーであった沢渡かれんには、「他人と自分とを比較してしまう」という試練がのしかかる。そよはリサの傍にいることで、魔法の力とはいえなんでもできるリサと自分を比べずにはいられないし、かれんはステージママだった母親に「一番になれ」という呪いをかけられ、各コンクールで二番手以上になれない自分を許すことができない。
女の子が成長していく上で、他者への羨望は大きなトラップのひとつなのだろう。それが嫉妬として定着してしまえば、あとは自分を伸ばすことより他人を貶すことに一生懸命になってしまい、自分の個性を咲かすことなど忘れてしまう。
比較のほかにもうひとつ、花を咲かすことを阻害するのは、人より前に出ると面倒……出る杭は打たれる、という意識だ。前に述べたが、これも主人公のそよが持っていて、「他者との比較」ほどあきらかな壁としての描き方はされないが、途中で乗り越えられる。
個を生かすのは非常に難しいことだ。痛みを伴い、勇気を必要とすることだ。その「難しさ」を語ることに、ストーリーの大部分が割かれている。途中、(経緯は伏せますが)そよとリサの立場が逆転する部分がある。なんでもできたはずの魔女のリサまでが、人間の女の子が成長する時の痛みを感じることを余儀なくされる。
だからこの物語は響く。現実を変えよう、自分のなりたい自分になろうという、下手をするときれいごとみたいなメッセージを、丁寧に伝えてくれる。

全2巻、8話のタイトな物語だが、大きなメッセージの詰まった物語である。
人生でそんなに多くはないであろう、少女誌での連載の機会に、迷わず直球のメッセージをぶつけてきた柚木を私は心底すごいと思う。
だからこの作品が多くの人に読まれることを願う。少女まんが誌というのは文芸から遠いフィールドに思われるかもしれないけれど、ぜひ柚木ファンの文芸読者さんにも読んで欲しいし、それだけではなく、「物語」を求める多くの人に読んで欲しい。
面識がある関係なので、柚木柚木ばっかり書いてしまったけど、香魚子先生の作画も素晴らしい。あのエンタメ界の「ごんぶと」みたいな柚木の話に、別マでも繊細さトップクラスの香魚子先生の絵を……?! というのも、最初聞いた時はびっくりしてしまったのだが、これがどうして……読んでしまうと、もう他は考えられないレベル。香魚子先生のデビュー作を読んだ人には、そこにもつながる? 不思議な縁のある話に読めるかもしれない(デビュー作は、短篇集『さよなら私たち』収録の「Us,you and me」)。
これは個人的な印象に過ぎないけれど、『魔法使いの心友』は「他人の話」を描いたマンガという感じがしない。もちろん他の香魚子作品を読んでいれば、いつもと違うことはわかるけれど、それでもよそよそしさは感じられない。原作つきマンガとしての完成度がものすごく高い。

2月25日に2巻が発売されたところなので、今1・2巻まとめてゲット! がオススメです。
みなさまぜひぜひ! 
別マの公式サイトで、第1話をまるごと試し読みすることもできます。
試し読みはこちら(たぶんPCのみ?)(3/5訂正:スマホでも見られます! ぜひお気軽に〜)。



……って、いつのまにかがっつり書評モードに入ってしまっててすんません!
もうここまで書いたからには「レビュー」として上げますわ……。
立場上……柚木にせよ香魚子先生にせよ今の私から見ると正確には
「別マの先輩」なわけで、レビューなんてエラそうなタイトルをかかげるのに
抵抗もあるんですが、評を探してるような人に読んで欲しいので、あえて。
by refri5erat0r | 2013-02-28 19:26 | 読んだものの感想